fukuoka wetland conservation research group
コアジサシ
〜 生態と保全対策 〜
コアジサシは世界中に分布するカモメの仲間で、日本にはオーストラリアや東南アジアで冬を過ごした集団が飛来します。
近年、コアジサシの個体数は減少の一途をたどっており、各地で保全活動が行われています。
このページでは、コアジサシの概要と湿地研が行っている保全活動についてご紹介します。
コアジサシってどんな鳥?
コアジサシ
チドリ目チドリ科
英名:Little tern
体長:24cm
季節:夏鳥
コアジサシは、繁殖のために日本へ渡来してくる夏鳥で、日本各地の砂浜や河原、埋立地などで子育てします。
「小鯵刺」という名前の由来は魚をとる姿。
水面の上を飛びながら魚を探し、見つけると一気に水面へと急降下! 見事に魚を捕まえます。
その姿がまるで魚を刺すように見えることから名付けられたそうです。
例年、博多湾には4月下旬頃から飛来し始め、5〜6月頃まではそのまま関西や東京方面へと移動していきます。そして6月下旬頃になると博多湾でも繁殖行動がみられてきて、いよいよ博多湾での子育てが始まります。
夏の海辺で「キリッキリッ」という声が聞こえたら空を見上げてみてください。
きっとコアジサシたちの姿が見れるはず!
コアジサシの子育て
博多湾では7月〜8月にかけての真夏の季節が子育ての最盛期。
ここでは、実際に博多湾で観察されたコアジサシの写真とともにコアジサシの子育てについてご紹介します。
STEP-1 デコイの作成と設置
本格的に繁殖が始まる前の5月〜6月。
コアジサシたちが繁殖するのに適した環境の砂浜にデコイ(模型)を設置します。
上空にはコアジサシたちが「キリッキリッ」と鳴きながら飛び交いますが、繁殖開始まではもう少し…
Marry me?
STEP-2 求愛、そしてつがいへ
初夏の博多湾はコアジサシたちの恋の季節。
オスはとってきた魚をプレゼントしてプロポーズ!メスが受け取ってくれたらカップル成立です。
中にはデコイに向かってプロポーズをしちゃうオスも…。決して実らぬ切ない恋です。
ちなみに、オスがメスに餌を与えて求愛する行為は「求愛給餌」とよばれます。
STEP-3 コロニーの形成
6月末頃になると、博多湾の数カ所でコアジサシのコロニーが見られ始めます。
集団で子育てをするのは、カラスなどの天敵に対して仲間と一緒に立ち向かい、卵や雛を守るためです。
以前は数百個体の大きなコロニーも見られましたが、近年は数十個体の小さなコロニーであることがほとんどとなってしまいました。
STEP-4 営巣・産卵・抱卵
コアジサシの巣は地面に浅い窪みを作るだけ。一度にだいたい2〜3個の卵を産みます。
卵は天敵に見つからないよう、地面に似たまだら模様をしています。
コロニー内に人が侵入すると卵に気づかず踏み潰してしまうこともあるため、立ち入らないことが大切です。
博多湾の繁殖期は7〜8月の真夏が最盛期。
容赦なく照りつける太陽のもと、約3週間メスとオスが協力しあいながら抱卵を続けます。
STEP-5 孵化
抱卵をはじめて3週間後、ついに雛が誕生します。
雛も卵と同様に、天敵から見を守るために周囲に溶け込むまだら模様をしています。
巣立ちまで、さらに約3週間。
コアジサシ親子の巣立ちまでの戦いが始まります。
STEP-6 危険との戦い
照りつける太陽、カラスなどの天敵、餌不足による飢え、そして人間…
雛たちは常に危険に晒されています。
親鳥のお腹の下は安全ですが、餌をとりに出かけている時などは雛は無防備な状態になってしまいます。
そんな時の手助けになるのが、すのこシェルター。強い日差しや天敵などから雛を守ります。
too hot...
I'm hungry!!
STEP-7 成長
育ち盛りの雛のため、親鳥は一日に何度も魚をとってきては雛に与えます。
十分な量の餌を与えるためにも、魚がとれる餌場とコロニーの場所の距離は、コアジサシの繁殖にとってとても重要な要素です。
しかしながら、近年は海の環境の変化により、餌となる魚がとれる場所や量が限られてしまうこともあり、雛が餓死してしまう場合も…
STEP-8 旅立ちの準備
孵化から3週間。
体は親鳥と変わらないほどに成長した雛(若鳥)は、旅立ちに向けて羽ばたきの練習を行います。
残暑が続く中、コアジサシとの別れの時期が近づいてきます。
STEP-9 旅立ち
子育てを終えた親鳥たち、そして巣立った雛たちはコロニーを離れ、他の群れたちと合流しながら日本を旅立ちます。
8月末の博多湾には、東日本各地で一足はやく繁殖を終えてやってきたコアジサシたちの姿も…。
こうして、長いようで短いコアジサシの夏が終わりをつげます。また来年戻ってきてね!
博多湾でのコアジサシの子育ての様子を撮影した写真たちを、当会会員がブログで紹介しています。
なお、これらの写真はコアジサシの繁殖活動に影響を及ぼさないように十分に距離を保った場所から撮影したものです。撮影等を目的としてコロニーに近づいたり、中に侵入したりしないようご配慮をお願い致します。
コアジサシの現状
1990年代、日本には約10万羽のコアジサシが飛来していたといわれています。
しかし、近年の飛来数は約1万羽。日本で繁殖するコアジサシの数は急激に減少してしまっています。
コアジサシの個体数が減少した大きな原因の一つとして、本来コアジサシが営巣地として利用する砂浜や河原の多くが開発や河川改修などによって失われていることがあげられます。
そのため近年では、埋立工事などで一時的に出現する裸地などを利用して繁殖する場面も増えてきました。しかし、そのような環境は工事が進むとなくなってしまうため、コアジサシたちは再び繁殖地を探さなければなりません。
カラスなどの天敵からの捕食もまた、各地で問題となっています。
コアジサシはコロニー(集団)をつくり、仲間とともに子育てを行います。これはカラスなどの天敵に対して集団で立ち向かって卵や雛を守るためです。
しかし、個体数が減少するとともにコロニーサイズも以前と比べて小さくなってしまった反面、カラスの数は増えたことで、襲われても撃退できずに繁殖に失敗するという例が少なくありません。
また、釣りや写真撮影目的の人間がコロニー内に侵入し、卵や雛を踏み潰してしまったり、親鳥たちが繁殖を放棄してしまうということもあるのです。
こうした現状から、コアジサシは環境省レッドリスト2020において絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されており、全国各地で保全活動が行われています。
コアジサシの保全活動
湿地研は、博多湾におけるコアジサシの繁殖活動を支援すべく保全活動に取り組んでいます。
① デコイの設置
デコイとは模型のことです。
工事予定地やその付近などで繁殖を始めてしまわないように、「ここは安全に繁殖できる場所だよ」とコアジサシに示すために設置します。
飛来初期にはデコイ設置周辺でコアジサシが頻繁に観察され、中にはデコイへ求愛給餌を行う個体も…。
② 飛来状況調査
コアジサシは毎年同じ場所で繁殖するわけではなく、年によって繁殖地を変更することがよくあります。
博多湾でも”必ずここで繁殖する”といった場所はありません。
そこで、コアジサシが飛来してくる季節になると、飛来数やその動きを観察してコアジサシが繁殖しはじめる場所を特定して、引き続き繁殖状況の調査を行います。
③ 繁殖地保護
コアジサシが1つがいでも営巣を始めると、その場所の管理者にかけあい、人が侵入しないようにロープをはって繁殖地を守ります。
コアジサシの卵や雛はとても小さく、また模様も地面に似ているため、むやみに人が入って踏み潰してしまうのを防ぐためです。
また、周辺に住宅地がある場合はチラシを配るなどにより近隣住民の協力を仰ぎます。
④ シェルターの設置
無事に雛が産まれ始めたら、雛のためのシェルターを繁殖地内数箇所に設置します。
このシェルターは真夏の太陽の日差しとカラスなどの天敵から雛を守ります。また、雛の羽毛は水を弾かず、雨もまた大敵となります。近年は7月の雨量も増加しているため、とても重要な保全対策となっています。
デコイづくりでコアジサシ保全活動に参加しよう!
コアジサシという鳥とその現状を知ってもらう機会になるよう、湿地研では海の中道海浜公園と連携してデコイづくり&設置のイベント「コアジサシ子育て応援隊」を毎年5〜6月に行っています。
主 催:
NPO法人 ふくおか湿地保全研究会
国営「海の中道海浜公園」
場 所:
海の中道海浜公園
※場所は変更になる場合もあります。
対 象:
主に小学生の親子。
大人だけでの参加も可能です。
参加費:
無料