fukuoka wetland conservation research group
クロツラヘラサギ
〜 生態と保全対策 〜
サギだけどサギじゃない、平べったい嘴をしたユニークな姿の鳥、クロツラヘラサギ。
ヘラサギの仲間は世界各地に分布していますが、クロツラヘラサギはアジア一帯にのみに生息する希少な種です。
このページでは、クロツラヘラサギの概要と湿地研が行っている保全活動についてご紹介します。
クロツラヘラサギってどんな鳥?
クロツラヘラサギ
ペリカン目トキ科
英名:Black-faced spoonbill
体長:74cm
季節:冬鳥
ヘラサギ類の特徴はなんといってもその嘴。長く伸びた嘴の先は平たく広がっていて、まるでしゃもじのような形をしています。そしてクロツラヘラサギは顔の部分に羽毛がなく嘴と同じ黒色をしており、目元には黄色い模様があるのも特徴の1つです。この模様は個体によって大きさも形も異なります。
採餌行動は必見!
クロツラヘラサギは見た目だけでなく、餌のとり方もとてもユニーク。
平たい嘴を水中に入れて首を左右に振りながら歩き、嘴に当たった魚やカニ、エビ類などを食べます。
時には複数個体で追い込み漁のようなことをすることも。
クロツラヘラサギを見分けよう
今のあなたはどのレベル?
LEVEL
1
サギ類と見分ける
河川や干潟、ため池などの水辺にはクロツラヘラサギに似た鳥がいるので、間違えないように注意が必要です。
中でもよく間違われるのがダイサギやコサギといったサギの仲間です。
とはいえ、嘴を見れば見分けるのは簡単!
また、クロツラとダイサギ、コサギは体全体が白いという共通点がありますが、ダイサギやコサギの首は細くて長いといった体型の違いもあるので、慣れれば遠くからでも見分けることができます。
ダイサギ
コサギ
クロツラヘラサギ
LEVEL
2
ヘラサギと見分ける
ヘラサギはクロツラと同様に日本に飛来するヘラサギ類で、クロツラとよく似ています。
見分けるポイントは顔の部分。
クロツラヘラサギは目やおでこの辺りの羽毛がなく黒くなっていますが、ヘラサギの顔には羽毛が生えています。
また、ヘラサギの方が少しだけ身体が大きいのでよく観察すれば顔が隠れていても見分けることが可能です。
クロツラヘラサギの群れの中にヘラサギが混ざっていることもあるので、よく観察してみましょう!
左がヘラサギ、右がクロツラ。
さて、ヘラサギはどこにいるでしょう?
LEVEL
3
個体を見分ける
みんな同じ顔に見えがちな生きものの顔。
でもクロツラヘラサギは個体ごとに特徴があるので、見分けることも可能なんです。
コツは目の周りの黄色い模様の形や大きさと、嘴のシワ模様。
年齢によっても特徴が違います。
若い個体はくちばしの色が淡く、シワもあまりありませんが、成長するにつれて黒くシワシワになっていきます。
また若い個体は翼の羽根の先が黒いので、翼を広げた時や飛んでいるときでも識別できます。
年齢や個体を見分けられるようになったら、あなたも立派なクロツラ博士!?
嘴がしわしわ。立派な成鳥です。
黄色い模様がほとんどない個体。
若い時は嘴の色が薄い。
成鳥と若鳥の嘴の違いわかりますか?
風切羽の一部が黒いのは若鳥の特徴です。
クロツラヘラサギの現状
クロツラヘラサギは夏に朝鮮半島や中国北部、ロシアなどの無人島で繁殖し、冬は南に渡ってアジア各国で越冬します。
日本には主に九州に飛来し、博多湾もクロツラヘラサギの重要な越冬地のひとつです。
クロツラは福岡の冬の風物詩でもあり、毎年初めて観察された日にはニュースや天気予報でも取り上げられることが多いため、姿は知らなくても名前は知っているという人も多いかもしれません。
1990年代までクロツラヘラサギはあまり知られておらず、世界で500羽以下しか確認されていませんでしたが、アジア各国をはじめとする世界中の国々が協力しあって保全活動を続けた結果、観察する人も増えたこともあって近年はその数もずいぶんと増えてきました。
毎年1月に行われているアジア一斉調査の結果、現在のクロツラヘラサギの生息数は約4,400羽とされています。
こうした個体数の回復からクロツラヘラサギは「最も保全に成功した例」ともいわれ、環境保全の代表的な存在となっています。
しかしながら、現在でも環境省レッドリスト2020において絶滅危惧IB類(EN)に指定されており、絶滅の危機から逃れられていません。
保全への関心が高まっている近年では、クロツラヘラサギの国際シンポジウムも開催され、各国が協力した調査がすすめられています。
繁殖地における調査では雛に足輪などを装着し、渡りの実態も少しずつ明らかになってきました。
博多湾にも足輪をつけた個体が毎年のように観察されています。
クロツラヘラサギに会える場所
九州北部に位置する博多湾には、毎年多くのクロツラヘラサギが飛来します。
渡り途中に博多湾を利用するクロツラヘラサギの数は約200個体。そのうち50個体ほどが博多湾周辺で冬を過ごし、残りの個体はもっと南へと渡ってゆきます。
福岡市内でクロツラヘラサギに会える主な場所は、西区の瑞梅寺川河口や東区の多々良川河口、和白干潟です。
中でも湿地研が活動している多々良川河口ではとても近くで観察ができ、これほど間近にクロツラを見られる場所は世界的にも珍しいようです。
多々良川河口の中洲や川岸のヨシ原はクロツラヘラサギが休息場として利用しており、湿地研では発足当初から清掃活動を続けています。
また、ヨシ原が水没する満潮時でも休息できる場所となるよう、福岡県土整備事務所にお願いして止り木を設置しており、この止り木はクロツラだけでなく他の多くの鳥たちに利用されています。
その他にも、クロツラの休息場である中洲に人が入らないよう看板を河川沿いに設置し、注意を促しています。
これまでクロツラヘラサギは海に近い干潟を利用する鳥だと思われていましたが、最近の湿地研の調査によって海から少し離れたため池も重要な生息地であることが明らかになりました。
湿地研はこれからもクロツラヘラサギとその利用環境の調査を続け、保全活動に活かしていきたいと思っています。